2011年3月23日水曜日

エネルギー政策についての議論(1)

先日、友人と原子力エネルギーについてどう考えるのかについて熱い議論になった。備忘録として、なおかつ議論を促す材料として、この記事を書こうと思う。

なお、私は「できるだけ安全な原発推進派」である。確実に「安全な」原発など、無理だし、今のような「安全」「安全」と言い張ることで国民からリスク意識を遠ざけるようなあり方も不適当だと考えている。当然ながら原子力なんて危ない発電システムに頼りたくなんかない。できれば全廃してやりたいわけだが、人類社会がこの文明を維持する限り、劇的にエネルギー需要を減らすことが出来ない。したがって、まことにやむをえないが原子力にある程度は頼らざるを得ないだろうと言うのが個人的な立場である。


①発電システムに必要な要素

簡単に発電に必要な要素をまとめてみる。
1.コスト競争力
2.事故に対する安全性(主に放射能)
3.エネルギーの安定供給性・融通性
4.環境・公害・廃棄物に関する問題
5.将来にわたる供給力(資源の枯渇など)

基本的に発電システムには火力(石炭・石油・天然ガス)、原子力、水力、新エネルギー(太陽光・風力・海水温度差・潮力・波力・地熱)があるが、それぞれで順序をつけてみると

1.水力>火力>=原子力>=洋上風力>風力・太陽光・海水温度差>潮力・波力・バイオマス
2.その他の発電システム>原子力発電
3.火力>原子力・水力>=洋上風力・バイオマス>その他の新エネルギー
4.どれも問題あり
5.水力・新エネルギー全般>原子力>火力

となる。個別に説明していく。

水力はオールマイティにバランスの良い発電システムであり、今までのようなダムによる発電システムではなく、取水口から流れの一部を組み入れて発電タービンを回す小規模水力発電として全国で数パーセント程度の電力を賄う可能性があるとされている。しかしエネルギー全体を賄うにはまだまだ限界がある。あえて言えばダムや水路を建設することによる環境破壊・水質汚染は問題がある程度だろうか。

火力はコストや短時間で電力供給量を自由に変化させられるなど電力供給での融通が利きやすいことなどとんでもなく使い勝手が良い。しかしながらピークオイルが2020~2030年に、化石燃料全体で2050年ごろに来ることを考えれば、将来にわたる供給力には不安がある。地球温暖化の問題もある。CO2や硫黄酸化物・窒素酸化物といったバックエンド、つまり厄介なごみを抱えているわけである。

なお、環境保護論者の一部(二酸化炭素排出量25%削減派で反原子力のNPO団体)は天然ガスにできるだけ全ての発電システムを切り替えることを主張している。CO2があまり出ないからなのだが、天然ガスのみにエネルギー供給を依存するのは国家安全保障上大変リスクが大きい。さらに、化石燃料の埋蔵量など中長期的な供給余力を考えると石炭を組み合わせざるを得ない。さらに言えば天然ガスも輸送でのエネルギーロスが大きいなど別個の問題を抱えているからCO2排出の観点からもよりマシなエネルギー源とはいえない。(見えないエネルギー消費が大きい)

※CO2による温室効果については、地球温暖化論争で議論のあるところとは思うし、個人的にも主流説にはやや同調しづらい部分があるが、反主流派のCO2で全く温暖化しないとする主張についても火星・金星で発生している温暖化より地球の温暖化が顕著なこと、1990年代にすでに太陽の活動はピークをむかえていたはずなのに温度上昇が続いていたことなど説明できていないことがあるのでこれもまた納得できない。

原子力は最悪の事態が発生したときに放射線汚染と言う最大の問題を抱えている。さらに放射性廃棄物と言うバックエンドを抱えている。ただしこうしたM9クラスの地震など(推進派曰くの)想定以上の事象でも起こらなければ、軽水炉の設計上(ボイド効果とドップラー効果、水というありふれた冷却材を使用していること、非常系統を複数抱える構造、9・11が発生しても原子炉は破壊されず飛行機が破壊されるくらい頑丈な圧力容器など)、原子炉の暴走のリスクはなく、放射線が外に漏れ出す心配はほとんどないといってよい。つまりリスクは低い。さらにCO2は排出しないし、エネルギーの大量供給に適している。融通は利かないが、安定して大量のエネルギーを供給できるのはやはりメリットである。

最後に新エネルギーである。洋上風力発電や太陽光発電などコスト面では火力・原子力・水力と同等の発電システムが完成しつつある。しかしながら地熱・洋上風力発電のような一部の例外を除き、常に電力供給が期待できる発電システムがほとんどない。太陽光は晴れのときしか期待できないし、陸上風力もやや怪しい。海水温度差や潮力・波力はもはや満潮・干潮・気温変動により大きく発電力が変化するやっかいすぎる発電システムである。つまりこうした発電設備を建設するためにはこれと同等レベルの火力発電を建設して、万一電力供給できなくなった場合の対策を施さなければならない。新エネルギーのコスト競争力は常に火力発電のコスト(供給力の半分)+新エネルギーのコストで計算されるべきとすらおもう。さらに洋上風力発電は津波や風水害に弱く、漁業権を侵害するために利害調整が難しく、地熱発電は温泉に影響を及ぼし観光産業との利害調整が難しく、風力は超低周波音による健康被害が出ている。小規模発電の組み合わせだから災害からの復旧にも時間がかかるし、災害での被害も大規模施設である火力や原子力より受けやすい。(安全対策がしにくい分)

すべて問題がない理想的な発電システムなんてない。それを反原発派はさも原発推進派がゆがめたかのように言っている。確かに一部の能天気な原子力工学・電力会社関係の人間が言っている「絶対安全」などという耳障りのいい発言の数々は顔をしかめたくなるようなことばかりである。NUMOの地層処分についての宣伝で岡江久美子(はなまるマーケットの女性司会者)に「私は必要だと思います」と言わせて、フィーリング・感情的に説得しようとしている様子は反吐が出るといってもよい。


現状では反原発気運が高い。私だって正直原発推進の立場になんて立ちたくない。そしてこれほどの大惨事を引き起こしたのである。徹底した真相究明が不可欠である。今回の事件のみではない。今までの原発推進派の滞在を徹底して究明し、糾弾し、是正していかなければ日本の国民世論の成熟化は図っていけないと思う。

原発は100%安全なエネルギーではありえない。これは当然のことである。そしてリスクは徹底したリスクマネジメントによって軽減することが可能である。津波対策、耐震補強と、非合理な運転規制の撤廃。組み合わせることによって少しでも地元住民の負担を軽減していかなければならない。

そして国民に不利益な情報を隠してはならない!!福島第一原発を始めとする東電によるヒヤリ・ハット事例の改ざん隠蔽疑惑は原子力行政に大きな疑念を残した。こうした事例はまだまだ多数あると思われる。この際、徹底して事実を究明しなければならない。原発労働者の待遇についても左翼団体から疑念がもたれている。あるいは地元住民が原発推進派の買収工作によって地域後と変われた事例なども知られているし、NUMOの感情論的な原発推進世論工作も問題である。こうした問題に対して5年間でもじっくりと徹底的に調べ上げるべきである。


しかし、とはいえ私からすれば新エネルギー・省エネルギーを神聖視し、原子力発電のリターンを全面拒否する反原発派も能天気な原発推進派と同じくらい見苦しいと思う。繰り返しになるが、私だって原子力になんか頼りたくない。しかしながらエネルギーミックスの観点からベース電源と呼ばれる昼夜問わず消費される部分は原子力・水力・洋上風力・地熱といった出力の変えられない安定した電源で、ピーク部分は火力発電+新エネルギーで賄っている現状がある。30%の電力供給を誇る原子力発電を中長期的に廃止すると考えても、ぶっちゃけ洋上風力やバイオマス、地熱発電にそれだけのポテンシャルはない。(いや、漁業者とか畜産業者とか観光業者を必要な犠牲だとして全て切り捨てられる法制度を整備すればできるかもしれません、それでもCO2削減のことも考えれば厳しいですが)要は新エネルギー以外にエネルギー源を見出さないといけない。ならば火力発電の発電量を増やすという世紀の「逆行」政策を打ち出しますか?

結局、今の文明社会を維持しようと思う限り、エネルギー政策の方向性は決まっているのである。そもそも文明レベルや経済レベルを引き下げるとの論議ならば脱原発も議論の余地がある。というよりも気候ネットワークなど比較的まともな環境NGOの試算でも、現在の経済活動が大幅に縮小した前提じゃないと(正確に言えばCO2排出量の多い鉄鋼業の海外移転促進などが必要としているが)、原発に頼らないCO2削減は成り立っていないのに、どうして経済レベルを下げずに脱原発が出来ると自信満々にいえるのかがさっぱりわからない。あるいは気候ネットワークは脱原発派なのに原発推進派による陰謀にだまされているのだろうか?

1.火力発電は出来るだけ削減する
2.水力発電は小規模なものを含めて積極的に開発する(ただし限界がある)
3.新エネルギーは洋上風力・太陽光・地熱・風力など採算性の高いものを優先的に整備するが、利害関係を処理できる範囲内で行う。また火力発電を追加で整備する必要があることも考慮に入れる必要がある。火力発電新設をはじめ、高コスト体質を補うためのフィードインタリフ(料金付加)制度が必要だし、漁業権・騒音公害などの利害関係を調整し救済できる法制度を整備する必要もある。
4.それでも賄いきれないエネルギーは原子力発電で発電する。結果として火力を削減する分の大半は原子力で補う必要があるから、原発の新設や稼働率の向上、エネルギー変換効率の向上を目指す必要がある。
5.余ったベース電力(原子力・新エネルギー・水力)は、燃料電池のための水素製造や夜間電力料金の大幅な引き下げによる夜間経済活動の活性化により処理する。

これ以外の選択肢があるならぜひ聞いてみたいものである。

いずれの機会に、備忘録として技術的論点からの細かい論点整理、ピークオイル論、エネルギー政策の将来像、反原子力派の陰謀論などについて個別に議論してみたいと思う。

2011年3月21日月曜日

許されぬ、混乱に乗じた政治工作

 俄かに浮上した谷垣総裁の入閣要請には驚いたとともに憤りを覚えた。これは政権による姑息かつ卑怯な政治工作といわなければならない。この谷垣総裁に対する入閣要請には次のような狙いがあると考えられる。まず谷垣氏が入閣を承諾すれば、事実上の大連立となり、国会運営などが円滑に進む。そして拒否すれば、災害対策に非協力的な自民党という烙印をまんまと押すことができるというわけだ。もし本当に入閣を要請するのであれば、執行部による事前の調整があるだろう。事前の調整なしにいきなりこのような要求を突き付けられても自民党側としては拒否するしかない。事実、自民党は拒否し、こうした姿勢に少なからず批判が上がっているようだ。このように今回の入閣騒動にはこのような姑息な打算が見え隠れする。
 さらに卑劣なことに、混乱に乗じてあの仙谷氏が内閣官房副長官に返り咲いた。関係省庁の調整を進めていく上で、仙谷氏が適任と首相が判断したということらしいが、果たしてあの傲慢不遜な人物に調整ができるのか甚だ疑問である。こうした人事を仙谷氏復権の足掛かりとするつもりだろうか。
 甚大な被害のなかで被災者の方々への支援や原発への対処など、するべきことは山積している。この期に及んでも民主党政権は「国民の生活が第一」ではなく「自らの生活が第一」なのだろうか。