2014年1月12日日曜日

書評:『反日・愛国の由来 韓国人から見た北朝鮮 増補版』(呉善花)



 本書は、韓国出身の呉善花氏が、李朝及び儒教の観点から北朝鮮という国を解説するものである。北朝鮮に主眼を置いているとはいえ、韓国も含めた朝鮮民族全般についても言及されていて、非常に興味深い。北朝鮮・韓国を理解するにあたり、読んでおいて損はない本である。

 呉善花氏といえば、昨年、祖国韓国に入国を拒否されるという事件があったことを思い出す。筆者によると、「韓国を誹謗中傷することで悪名高い韓国系日本人」と韓国では言われているらしい。確かに筆者の著書には韓国を批判するものも多い。しかし、本書を読んで思ったのは、筆者は祖国韓国を相対化して見ることのできる非常に聡明な人物だということだ。したがって、彼女の韓国に対する批判的言説は、親日的心情というよりも、あくまでも自国の相対化によって生じるものなのだと思う。

 さて、先ほども述べたように、本書は北朝鮮を主として扱っているが、私にとって印象に残ったのは、むしろ韓国に関する記述であった。そこで思ったのは、やはり日韓友好は不可能であるということだ。

 例えば筆者は、韓国人の反日意識について、日本による植民地支配に根拠を求める説明を退け、次のように述べる。


 しかし戦後の韓国政府は、日本の植民地支配それ自体への批判から反日政策を遂行したのではない。植民地支配を、日本民族に固有な歴史的性格に由来する「反韓民族的犯罪」と断罪することによって、人々を「反日本民族・民族主義」へと組織したのである。つまり反日の根拠をなすものは、植民地支配それ自体なのではない。そうした事態を招いた日本人の「侵略的かつ野蛮な民族的資質」にあるというのである。


 こうした日本を侮る価値観は、李朝時代の小中華主義(朝鮮こそが中華の正統な後継者であるという自負)に由来するという。であれば、日本がいくら過去の植民地支配を謝罪しようが、日韓友好にはあまり関係がない。なぜならば、韓国ははじめから日本を下に見ているからである。友好関係とは、互いが互いを認めあい、対等な立場で構築するものだ。自分を侮っているような相手と友好関係になれるだろうか。

 しかも筆者によれば、韓国には、「先祖の怨みに子孫は怨みをもって報いる」ことを「孝」とする儒教道徳があるという。こうした思想に基づいて、事後立法により「日帝植民地支配」時の反民族行為者(=親日派)の糾弾が行われたと筆者は指摘する。

 朴槿恵大統領は「加害者と被害者という歴史的立場は千年経っても変わらない」という発言をしたが、まさに「先祖の怨みに子孫は怨みをもって報いる」という価値観の現れではないか。こうした価値観にとらわれている限り、過去のことを水に流し、未来志向の関係を築けることはない。

 ただし、だからといって、日本も韓国を嫌悪し、関係を断ち切ればよいというわけではない。日韓友好などという空虚な幻想に拘泥するのではなく、あくまでも利害を軸にした戦略的な関係を目指すべきだろう。そこで必要なのは、本書のように、相手を冷静に分析する姿勢である。

(坂木)