2014年8月1日金曜日

「妄想狂」なのは誰か

 先日、ネット上で信じがたい記事を見つけた。『AERA』から抜粋された記事らしい。少々長いが、全文を掲載する。

 万全の備えが抑止力になる。安倍首相は、こう集団的自衛権を正当化する。でも、その言葉に説得力はない。母親たちの声なき声は、直感的に「危険」を察知している
   国の方向性が見えない中で、母親たちが子どもの将来を案じるのは、自然の流れだろう。千葉県に住む理系研究職の女性(44)は閣議決定後、「子どもたちには、自分の頭で考えて選ぶ力をつけさせたい」と、より強く思うようになったと話す。
   小学4年になる娘は1歳から英語教室に通わせた。自身の就職活動や働きながらの子育てを通して、この国で女であることの生きにくさを痛感してきたからだ。ただ、憲法改正に前のめりな安倍晋三首相の「妄想狂的なところ」に怖さを感じ、第2次安倍政権が発足した後、5歳の長男にも英語教育をほどこし始めた。いざというときの海外避難に備えて外貨預金をし、家族全員のパスポートも常備している。
   閣議決定後、夫婦の会話は娘の中学受験の話から、集団的自衛権に変わった。政治に関する本を読み始め、少子化や高齢化についても考えをめぐらせる。
  「特定秘密保護法も集団的自衛権も、来るものが来たなという感じ。自分の家だけで海外に逃げていいのか。ほかのお母さんたちがどんな思いなのかを知りたい」 
   元弁護士で2歳の娘がいる黒澤いつきさん(33)は昨年1月、30歳前後の弁護士仲間とともに「明日の自由を守る若手弁護士の会」を立ち上げ、共同代表を引き受けた。会員は現在、330人ほど。活発なメンバーは女性、とくに母親たちだ。今年6月には、法律用語を日常的に使う言葉に置き換えて解説した『超訳 特定秘密保護法』(岩波書店)を出版した。 
   前回総選挙で自民党が圧勝した瞬間、頭をよぎったのは生後8カ月の娘の顔だった。会の目的は、思想やイデオロギーではなく、何が起きているのか簡単な言葉やイラストで伝え、考える材料を提供することだ。カフェやレストランで憲法について学ぶ「憲法カフェ」を催し、じわじわ人気が広がりつつある。超訳本の著者の一人でもあり、この活動を始めた弁護士の太田啓子さん(38)も2児の母。やはり子どもの存在が後押ししていると、太田さんは言う。 
  「子どもがいなかったらここまでやらなかったと思う。母親になると、子どもの年齢で考える『子ども暦』が自分の中にできて、初めて50年後の社会を想像するようになります。ママたちの行動は、こうした体感に根差しているのです」

 こんな馬鹿げた記事を臆面もなく掲載するAERA編集部の頭は大丈夫かと心配になる。それとも、政権批判のためなら恥も外聞もかなぐり捨てて憚らないのか。このような三文記事にもならないようなものに論評する価値もないが、日本人の平和ボケを極端な形で象徴する記事のように思えるので、あえて取り上げたい。

 この文脈では、「理系研究職の女性」は、集団的自衛権容認によって日本が戦争に関わる危険が増大したため、海外へ避難することを検討しているようだ。しかしながら、集団的自衛権を認めていない国がほかにあるのだろうか。彼女が具体的にどこへ避難するつもりなのかは不明だが、彼女の論理に従えば、集団的自衛権を認めている別の国へ避難したところで、戦争のリスクは変わらない。むしろ、日本国内の治安は他国よりも良いので、移住によってかえって危険な状況に陥るのではないか。

 「特定秘密保護法も集団的自衛権も、来るものが来たなという感じ」というが、いままでの日本にそうしたものがなかったということの方が異常なのだ。にもかかわわず、あたかも日本が特異な国になったかのような「妄想」に憑りつかれて慌てふためく様は、まさに平和ボケそのものである。

 そもそも、「いざというとき」というのは具体的にはどのような事態を想定しているのか。尖閣諸島付近での紛争?はたまた彼女の住む千葉県を含む首都圏への攻撃?安倍総理を「妄想狂」というが、「いざというときの海外避難に備えて外貨預金をし、家族全員のパスポートも常備している」など、起こりもしない(蓋然性の乏しい)ことに対して病的なまでに過剰に心配する連中の方がよほど「妄想狂」に思える。

  ここに登場する女性たちは、どうも自民党政権、とりわけ安倍政権に対して尋常ならざる危機感を覚えているようだが、他の政党―例えば民主党―が政権をとれば安心するのだろうか。民主党が与党の座にあったときには何も感じなかったのだろうか。もしそうだとすれば、彼女たちの直感というのは、全くあてにならない。

(坂木)