2013年3月12日火曜日

「一票の格差」について



 ここ最近、昨年の衆議院選挙におけるいわゆる「一票の格差」について、各地の裁判所で違憲判決が相次いでいる。

「一票の格差」とは、議員1人当たりの人口(有権者数)が選挙区によって違うため、人口(有権者数)が少ない選挙区ほど有権者一人一人の投じる1票の価値は大きくなり、人口(有権者数)が多い選挙区ほど1票の価値は小さくなる問題であり、これが憲法第14条に規定された法の下の平等に反するとして訴訟が起こされているわけである。

 この「一票の格差」の解決するために、都市部のような有権者数の多い地域では議席を増やし、有権者の少ない地域では議席を減らすというようなことが主張される。国会では、衆議院選挙における小選挙区の「0増5減」という方針が決まった。

 私としては、「一票の格差」是正に対しては賛成である。しかし、その一方で危惧すべき点もある。

 仮に「一票の格差」是正のために都市部の選挙区の議席を増やし、過疎地のそれを減らすと、地方の意見が汲み取られにくくなるのではないか。これが私の危惧する点である。

 憲法43条に「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」とあり、国会議員はその選挙区の利益ではなく国家全体の利益を考えるべきだというのは全く以てその通りなのだが、現実はなかなかそうはいかない。国会議員とて所詮は選挙で当選しないとどうしようもないわけだから、どうしてもその選挙区の有権者の意向に従わなければならないことも少なからずあるだろう。例えば、農業が盛んな地域でTPP参加賛成と言おうものなら、ほぼ確実にその候補者は落選する。たとえTPPに参加することが国家全体の利益になるとしてもだ。

こうなると、数の上で有利な、都市部の有権者の利害を背負った議員が国会を跋扈し、都市部に有利な政策が推進されやすくなるという事態もありうるのである。

 一人一票実現国民会議のホームページには次のようなQ&Aがある。


6 発展が遅れている地方の利益を考えると、地方票を重くした方が実質的には公平ではないですか?

6 選挙制度は地方にも公平中立であるべきで、地方にどういう政策を採るかは国会議員が全国民の代表としての視点から国会で議論すべき政策問題です。

   地方の声を国の政治に反映させることはたしかに大事なことです。しかし、都市の住民の選挙権を0.2票に押さえるようなやり方で実現すべきことではありません。それでは、少数決によって日本の国が運営されてしまい、民主主義が全く機能しなくなってしまうからです。ですから、選挙制度のような民主主義を実現するための手続は、誰に有利にもならないように、あくまで公平中立であるべきです。
   国の発展は、地方、都市、双方の発展なくしてはありえないのですから、都市から選出された議員が都市の利益しか考えないはずはありません。ですから、票の重さを人為的に操作するようなことをしなくとも、地方の利益を実現することは十分可能なのです。

   しかも、そもそも国会議員は全国民の代表者であり、選挙区民の代表ではありません。憲法43条にはそう明記されているのです。地元に利益を誘導することが国会議員の仕事ではありません。過疎の問題をはじめとする地方の問題に対して国がどのような手を打つかという政策問題は、都市から選出されたか地方から選出されたかを問わず、何が全国民の利益にかなうかという点から議論して判断すべきことなのです。


 全く反論の余地がないのだが、残念ながら、こうした理想が完璧には実現していないのが現状だ。

「地方の声を国の政治に反映させることはたしかに大事なことです。しかし、都市の住民の選挙権を0.2票に押さえるようなやり方で実現すべきことではありません。」という意見に対してもその通りだとは思う。しかし、実際に都市部の議席を増やせば、都市部の声が大きくなることは必至である。

 しかも、一人一票実現国民会議では、こうも言っている。


2 多数決とは何ですか?最終的に多数派の意見で意思を決めるのはなぜですか?

2 多数決とは意思決定を行う際、多数派の意見で決を採ることです。

   最終的に多数派の意見で意思を決めるのは、少数派の意見をとるよりも、多数派の意見をとったほうが、多数の人々が幸福になるからです。最大多数の最大幸福が民主主義です。

   100票中、多数派にぎりぎりまで迫った49票を退けてまで、51票を「人々の意思」とするのはなぜでしょう。多数意見は正しいことが多いからという考え方もありました。しかし、正しさや真実さは、多数かどうかとは関係がありません。天動説が支持されていた時代でも地球は回っていたからです。多数派の意見を「人々の意思」とするのは、そのほうが、少数派の意見で決を採るよりも、多数の人々が幸福になるからです。


 この論理からいえば、都市部の方が人口が多いわけだから、地方を切り捨ててでも都市の利益を優先したほうが、最大多数の最大幸福に適い、それが民主主義ということになる。これを「多数者の専制」と呼ばずして何と呼ぶ。

 結局のところ、「一票の格差」を是正したとしても、別の意味で格差が生じるのである。

 無論、だからといって「一票の格差」是正には意味がないと主張したいわけではない。「一票の格差」を是正すると同時に、地方の意見も十分に汲み取れるような仕組みを構築しなければならないのである。
 
 例えば、参議院をアメリカの上院のように、人口に関係なく各1名乃至2名の都道府県代表で構成するという案が考えられる。これには、上述した憲法43条にある国民代表の原理に反するのではないかという意見もあるようだが、「一票の格差」を是正する上でも、改憲を含めて、十分な検討がなされるべきだろう。

 重要なのは、「一票の格差」を法の下の平等という観点のみからとらえるのではなく、衆参両議院の選挙制度全体の問題のひとつとしてとらえることである。

(坂木)