2012年9月20日木曜日

尖閣問題を考える―【2】尖閣諸島国有化は是か非か?



  この記事では、“反日デモ”と呼ばれるものの発端となった尖閣問題について考えたい。理由は、先日とある意見を耳にしたからである。その方によると、石原都知事による尖閣諸島購入は、日中間の領土問題の存在を自ら認めるものであり、国益に反しているという。そして日本側が実効支配している現状では、尖閣問題を棚上げすることがベストな選択だという。一見すると勇ましい愛国的行動が、実は国益を貶めいているというわけである。この意見には賛成できる部分もあるが、最終的には反対である。以下、その理由を述べたい。

【賛成点】

・尖閣諸島購入は根本的解決にはならない

 石原都知事の当初の案では、尖閣諸島を購入し日本の領土であるということを内外に示した後、小規模な港湾施設を建設し実効支配を強化する予定であった。これはこれで必要なことである。とりわけ、尖閣諸島が日本国の領土でありながら、日本国民の上陸が認められないという歪な状況が続いてきたなかで、日本人が上陸し、島を活用できるようになることは大変な意義がある。

 しかしながら、その一方でこうもいえる。そもそも同島に関しては日本が実効支配してきたのであり、ことさらに日本側が実効支配をアピールすることは、同島の領有権に疑義があることを自らが認めてしまうことにもなる。これがさる方の意見である。これは認めざるをえない。

 さらにいうならば、東京都であれ日本国政府であれ、公的機関が尖閣諸島の領有権を手に入れたところで中国にとってはあまり大きな問題ではないだろう。先方は、土地が誰のものであれ自分たちの領土だと主張するとんでもない国家である。であるからして、中国としては、日本政府が購入しようがしまいが、尖閣諸島は一貫して中国の領土なのである。
 
 そして重要なのは、尖閣諸島を国有化した後も、漁船を尖兵として中国の軍隊が武力を用いて島を“奪還”しにやってくる可能性が大いにあることである。つまり私が言いたいのは、島を国有化することも大切だが、中国による脅威からいかに島を防衛するかということのほうがそれ以上に重要なのだということである。島を国有化したから安心なのではない。実際上の脅威に対していかに対処するのかが肝要なのだ。

 したがって今回の尖閣諸島購入は、いたずらに中国を挑発し、彼らに武力行使の口実を与えてしまったという見方もできる。この問題を解決するには、中国側が我が国の領土に立ち入ることを断固として許さないようにするための法整備と防衛力の強化しかない。しかし、現政権にそこまでの覚悟はない。であれば、今は中国を刺激するような真似は控えるべきだという意見が出てきても不思議ではない。尖閣諸島購入のタイミングが悪かったのだ。

【反論】

 以上のような意見がある一方で、やはり私は、国有化は必要であるという立場である。ただしそれは、現政権がしたように、ただ国有化し、今までと変わらず立ち入りを禁止するというような意味での国有化ではない。また、ただ単に国有化してしまえばいいというわけでもない。前述したような法整備と防衛力の強化と併せて行うべきだと考える。詳細を述べることにする。

①棚上げでは解決しない

 いうまでもなく、棚上げではことは解決しない。確かに日本側がことさらに領有権をアピールする必要はないものの、現実に中国の脅威は日に日に増している。仮に日中が再び尖閣問題の棚上げで合意したとしても、その合意がいつ反故になってもおかしくない。棚上げは問題の先延ばしに過ぎないのである。

②何もしない(棚上げ)という選択肢は中国に誤ったメッセージを与える

 仮に今回のような国有化がなかったとしよう。するとどうなっていただろうか。強硬な手段によって中国に実効支配される日が遅かれ早かれやってくることになることは明らかである。2年前の漁船衝突事件や、先月の漁民上陸事件、さらには中国の監視船が周辺海域を遊弋するような状況の中で、尖閣諸島の実効支配強化に乗り出さないという選択は、中国に誤ったメッセージを発することになりはしまいか。その意味で、東京都が尖閣諸島購入に名乗りをあげたことは一定の成果があったといえる。中国が反発するのは当たり前である。重要なのは、中国を刺激しないように配慮することではなく、我が国の実効支配をより確実なものとするためにあらゆる手段を講じること、あるいはその意志を示すことだ。

ただし、その後に国が買い取ることとなったことには苦言を呈したい。そもそも尖閣諸島購入は、東京都という地方自治体がやることにミソがあった。国がやると中国の反発も大きいだろうから、まずは都が買い取ることによって、国としては中国に素知らぬ顔ができる。いち地方自治体がしたしたことなので国は口出しできないというわけだ。ところが、中国の反発を恐れた政府が俄かに購入し、しかも従来と同様のやり方で島を管理するという。この国有化は完全に裏目にでたといえよう。領土を守るという覚悟のない者がいたずらに国有化することで、かえって中国側の圧力は増し、領海とその周辺での主権侵害行為をひき起した。繰り返すが、本当に尖閣諸島を守るのであれば、国有化のみならず、防衛力強化が不可欠である。

以上の理由から、尖閣諸島の国有化は、ベストな選択ではないにしても、棚上げに比べてベターな選択だった。無論、今後は島での港湾施設整備や、領土・領海保全のための法整備・防衛力強化も推し進めていくべきである。

(坂木)