2012年2月17日金曜日

橋下新党・船中八策を検証する(5)

④公務員制度改革

職員基本条例や能力給の導入だが、これも基本的には賛成である。ただしポピュリズムに走り過ぎ、公務員たたきをすればよいといった誤った観念が広まることは危惧する。

基本的にだが、公務員は過度に質の良すぎる部分と過重労働の部分が共存してしまっているのだと思う。たとえば、政策立案の中枢部分は今の給与では見合わないくらいに過重労働をしている。公務員批判をしている人間からすると、「公僕」なのだから、薄給で民間人以上に働かないといけないのかもしれないが、そんなことをして、バカな政策しか立案できない公務員のみになって困るのは私たちなのだ。そういった意味で、こうした創造的な仕事をしているところに能力給を導入し、高給を与えるのは正しい。給与はむしろ上げるべきである。

しかしこんな創造的な仕事をしている公務員は全体の1割にも満たないだろう。大半は事務仕事・現業をしているわけである。こうした仕事は頭脳労働はほとんどない。能力給にしても意味がない。にもかかわらず、公務員の安定性から必要以上に高学歴の人間が集中して、役所に入っていくこととなる。これでは、有意な人材が民間企業で生かされず、役所側も仕事のわりに高給を支払う必要が出るなど、人材のミスマッチが甚だしい。本来、大半の公務員の仕事はそれこそ生活保護世帯やワープアの人々に月給十数万くらいでワークシェアリングすればいいのである。

公務員の数も給与も少なくすることはばかげている。むしろ給与を安く、公務員数を増やすことで有意な人材を民間企業に送り込み、貧困層に公務員の雇用口を割り当て、役所をセーフティーネットのように扱えばいいのである。これが欧州での一般的な公務員の姿である。だから欧州では公務員数が多いのだ。逆に日本は無駄に人材の質がいいので公務員数が全労働人口に比べて少ない。

最低限の政策立案に必要な人間のみキャリアとして採用すればよいのではないか?


⑤社会保障制度改革

掛け捨て制は聞こえはいいが、高所得者のみ年金支給をやめるというシステム上のコストを考えれば、実はそれほど割のいいことではない。高々数%に支給しないことでねん出できる財源と、そのためのシステムを作るためのコストでは公務員やシステムのコストの方が大きくなってしまうことだってあり得るのだ。

積立制の年金導入も聞こえはいいが、今の賦課制度から積立制度に切り替える際に、積み立ての財源をねん出する必要がある。つまりは今の現役世代は、ただでさえ賦課制度で損しているのに、さらに積立制度の積立金も捻出するという二重損になってしまう。そうでなければ、数百兆円単位の国債発行で賄うしかない。

ベーシックインカムと負の所得税を並立させて検討課題としていることに至っては失笑ものである。ネットで識者(笑)に聞いたことをそのまま載せたのかもしれないが、ベーシックインカムと負の所得税は本質的に同じことである。

ベーシックインカムはすべての人に均一にお金を支給する考え方である。だから働けば働くほど収入は増える。どちらかといえば障碍者の人権運動に端を発する考え方で「生きることも労働だ」というどこのマルクス主義だよという主張から端を発している。

これに対して、負の所得税は高所得者にはベーシックインカムの分を控除し、低所得者にはベーシックインカムに足りない部分を段階的に給付付き税額控除することで、働くほど収入を増やす仕組みにする、労働意欲をそがないようにする制度である。フリードマンが提唱した政策であり、ネオリベラリズムと親和性が高い。なので、負の所得税を提唱する人は、生活保護や年金制度の廃止を主張する場合が多い。

財源は負の所得税の方が少ないし、発想がネオリベ的なのだが、本質的にやってることは負の所得税とベーシックインカムでは何ら違いはない。

橋下新党の考え方で最もずさんな部分がこの社会保障制度である。猛省していただきたい。

(執筆者 43)