2012年7月13日金曜日

F教授の考え方に対する個人的な見解並びに考察―Part2

F教授の基本的スタンス

 F教授の基本的立場に関しては、様々な政策分野について非常に多岐にわたっており、すべてを説明することは困難であるが、ここでは議論の土台として、主張されている事実を簡潔にまとめる。
    強靭化による日本再生
F教授は、日本強靭化計画を提唱されている。具体的な内容を以下に列挙する。
・事業規模:200兆円程度
・投資対象:東日本大震災を教訓とした防災対策事業
国土軸の複線化による日本経済のリタンダンシーの向上
  ・効果  :減災による損害額低減
数万人単位の人命
        公共事業の乗数効果による景気浮揚(約400兆円)
 こうした政策を推進するにあたって、藤井先生は財務省をはじめとする勢力が主張する財政健全化路線を批判し、財政出動の重要性を強調されている。また、財政健全性を強調するあまり、必要な公共投資が行われてこなかったことに対して強く批判している。

    経済学者批判、新自由主義批判
経済学に対する批判は以下の4点に分けられる。
1.個人の効用関数の固定性
2.倫理感・公平感など人間が持つ複雑な要素を単純化した合理的人間観(動物的人間観)
3.実証性・実験性に乏しい理論のみの経済学体系[1]
4.極度な競争原理・自由競争が招く貧困、合議の重要性の軽視
   F教授にとって、経済学が批判の対象となるのは、まさに経済学の持つ合理的人間観に起因すると思われる。そのうえで、経済学が称揚する競争原理を批判する。つまり、ウォール街の一握り1%の人間が富を享受し、99%は貧困にあえぐ極端な資本主義に対する批判である。また、シッコに描かれたアメリカ社会における医療を享受できない多くの貧困層に対するシンパシーである。
   一方、競争原理からは背反する談合やタクシー規制の強化に対しては肯定的であり、こうした政策が一般市民を守り、悪用する人間がいなければすべての人を幸せにすると主張する。

    心理的方略の重要性、構造的方略への過度な依存の批判
F教授は社会政策における構造的方略と心理的方略の関連性を指摘する。構造的方略は、1人の非協力行動が集団の非協力行動を引き起こす腐ったリンゴ効果ゆえに重要である。しかし、構造的方略はいくつかの心理実験[2]において問題点が指摘されている。
一方、心理的方略は飴と鞭による解決と対比して人間の倫理観に訴えかける政策であり、100%の解決は期待できないが、確実に効果が見込めるものとして高く評価している。

    強いエリート主義
F教授は一般市民の公共受容を図るためには行政に対する信頼を向上させる必要があると指摘し、かつてのお上意識はよいものであると賞賛する。一方でPIのような住民参加に対してはどちらかといえば本質的な解決策ではないと批判的である。こうした考え方には強い大衆政治に対する批判が含まれている。


[1]経済学の有効性に対する問題点は、藤井先生のみならず、既存の経済学者(クルーグマン、スティグリッツ)などからもサブプライム危機に端を発して、提起されてきた。また、行動経済学などからは効用関数に基づく合理的人間観が実証できないものであるとの指摘は以前からあった。
[2] 意思決定フレームモデルや内発的動機など