2011年11月3日木曜日

TPP推進派の弁明

私は原則的にTPP推進派である。

TPP推進の理由はいくつかあるが、簡潔に説明すれば、

①輸出産業に乏しい現状の打破、外需を中心とした景気刺激策の実施
②人材の自由化について、国籍法などで「帰化を希望する者」に限定するか、永住権を取得する要件を「特殊な技能を持つ者」に限定することで、完全な自由化を防止しながら、人材獲得競争に参入するきっかけを作れること
③農林水産業や規制産業に対する構造改革圧力のきっかけとなること
④結果的な農産物価格の下落など消費者に与えるメリットの大きさ

である。①、②については正直なところ、ここまでうまくいくとは思っていない。大変問題点も多いと思っている。しかし、③については私は早急に実現させなければ、将来、日本は食料安全保障を言ってられないほど致命的なダメージを被ってしまうと確信している。

一方、TPP反対派は以下のような主張をしているように見受けられる。

①日本は輸出依存度が低く、またアメリカの関税率はそれほど高くないので関税障壁は低い。為替による影響のほうがはるかに大きい。
②農林水産業に致命的な打撃を与える。
③人材の流動性によって、日本の低所得者層や資格者にダメージが生じる。
④混合診療の許容によって国民皆保険制度が破壊される

などが挙げられる。①については正直、何を考えているのか疑問である。まさかとは思うが企業にとって、たとえば自動車の10%の関税がなくなるのとなくならないのとでどれほど利潤が異なるのかわからない人はいないだろう。もちろん為替による今の円高基調が与えるダメージは関税によるダメージよりはるかに大きいのは事実で、その点ではTPP反対派に無条件に同意するが、関税の引き下げは無意味であるかのような言説は、完全に虚偽である。輸出依存度の話に至っては、むしろ問いたいのだが、日本がこれから内需で景気刺激できると思っているのだろうか?むしろ私などは輸出依存度を高め、自動車のみの一本足打法から、農林水産業、鉱工業からサービス業に至るまでトータルに世界に打って出ることのできる産業構造を目指していかなければ、日本の豊かさは保てないと思っている。

三橋理論のように公共事業すれば、無条件に景気回復すると思っているおめでたい人を除けば、デフレの正体曰く人口ボーナスのなくなった日本でよほどの努力をしなければ内需拡大を実現する余地が少ないのは明らかである。公共事業はあくまでそれに伴う民需の拡大が伴ってこそ、景気刺激としての継続的な意味が出てくる。しかし、現状では民需を誘発できるほど効果のある公共事業はそれほど多いとは言えない。

一言付け加えるならば、公共事業を私は全否定もしない。カンフル剤としての意味は十分あると思うし、フィスカルポリシーが正確に実行されるならば、経済循環の緩和につながり、安定的な経済運営が可能になろうと思う。しかし、民主主義社会において、基本的に好景気だからと言って増税したり、公共投資、福祉水準を引き下げることで有権者に負担を強いることは難しい。したがって公共事業に過大な期待をするのではなく、あくまで公共事業は次に続く民間投資の誘発や国民の心理的景況感の回復につなげるためのオプションに過ぎないのだという意識が、三橋理論には欠けているのだと思う。だから不景気だから無条件に公共事業を続ければ、いつかは景気回復するに違いないとの暴論が出るのだと思う。そういう意味では公共事業のみではなく、むしろ科学技術投資を増やして新産業を創出することに国は力を注ぐべきだと思う。

②について、私は30年後の農業がどうなるか考えたことがありますか?と、逆に問いたい。就農者の高齢化は現時点でも深刻だが、新規参入者もそれほど増えてはいない。確かに近年になって50~60代の就農者が増えつつあるらしいが、焼け石に水とはまさにこのことである。中野氏いわく、「東北の農業しているおじいちゃん、おばあちゃんが、どうなってもいいんですね。血も涙もない人間だな。」みたいなことを言ったらしいのだが、私は、「そのおじいちゃん、おばあちゃんが亡くなった後、誰が先祖代々の土地を引き継いで農業続けてくれるんですか?その考えもなしに保護のみを述べることは、今、農業をやっているおじいちゃん、おばあちゃん含め、誰も喜ばないでしょ?」と問いたい。

農業構造改革とTPPは別物だと反論する意見もあると思う。ご尤も。私もTPPに無条件の賛成ではないから、正直言うと、農協の独占体制に、外圧なしに風穴があくならば、喜んでTPP反対派になってもいいのだが、残念なことに農協様の力は大変に大きく、それに対する消費者団体・高コストを甘んじて受けれいている食品業界の力は弱い。農協は大規模農業の難しい山間部の農家や零細農家にとってなくてはならない存在であり、農協解体論には断固反対である。しかしながら農協は金融、スーパーなど様々なビジネスに手をだし、「零細農家・兼業農家が多いほうが、組織の利益になる」体質になってしまっている。したがって、やる気のある農家が農協がなくとも手軽に販路を拡大できるような新しい仕組みが必要なのだが、今の独占体制では難しい。国内的にこれを解決するのは至難の業である。そうこうしているうちに過去の歴史が証明するように、農業は先細りである。先細った後に、開放しましょうでは、それこそアメリカに日本の首根っこを握られてしまうような気がするのは気のせいだろうか?

③は率直に言って、僕は制限された移民賛成派(帰化前提ならば移民O.K.+高所得者・技能者に限り永住権付与)なので、一概に納得しきれないところはあるが、無条件の人材流動性が合意されるならば僕もTPP反対である。当然、今の日本の社会構造を揺るがし、日本をアメリカのような格差社会にしてしまう。社会は不安定化し、分断されてしまう。

しかし、現在、日本はフィリピンやインドネシアなどいくつかとEPAで取り決めているレベルの人材開放ならば、日本には「日本語」という強力な壁があるので、それほど急激に流入することはないと思う。

SDI条項と絡めて、すべての公文書が英語に切り替わるやら、入札が英語になるなどとんでもなことをいう人間がいる。まあ入札で日本語・英語併用くらいならば0とは言わないし、結果として建設業界が不利益を被る可能性も否定しない。しかし、アメリカ政府がすべて英語に一元化しろなどと要求できるわけがない。彼らはグローバルスタンダード、機会の平等を掲げているが、英語に入札制度を一元化すれば、日本から「日本の建設会社の機会の平等を侵害している」と逆提訴されかねない。というよりアメリカの入札にも日本語を認めるよう要求してもいいことになる。ならばアメリカの地方政府の入札にも日本企業が入れるようになるので、イーブンでは?とも思うのだが、どうだろう?

④についても現時点で交渉対象ではないというのもそうだが、将来的に交渉対象となったとしても、十分反論の余地のある分野である。アメリカがオーストラリアに社会保障制度についてケチをつけたということを反対派は根拠としているらしいが、逆にオーストラリアはそれによって国民皆保険制度や年金制度に致命的なダメージをつけられたのだろうか?また国際的な取り決めはTPPだけではない。社会ほしょ関係に取決めだってある。国際人権規約だってある。まさかすでに保障された国民の権利をはく奪するような改革が、国際的な取り決めで押し付けられそうになれば、日本も国際人権規約A規約○×条で反対するってことはできるだろう。

また混合診療も無条件によくないわけではなく、日本でも認証が遅れている高度医療や差額ベットなどで条件付きに認められている。こうした追加サービスみたいなものを限定的に認めていくのみならば、それほどダメージにはならないし、消費者・医療関係者双方にとってメリットの多い改革になることもあり得るだろう。

もちろん原則的に医療のような公共財で、民間に任せるのは馬鹿らしいことである。したがって国民皆保険は絶対死守されなければならない制度である。しかし、無条件に国民皆保険の範疇に入れるのではなく、低所得者も高所得者も十分な医療を保障し、付加価値(病院での食事などの治療に関係のないサービス)は高所得者が選べるようにするというのも1つの考え方のように思える。医療はもうからないということで、赤字の続く医療機関の経営改善にもつながると思う。

無意味にアメリカに対しておびえることは意味がない。SDI条項もアメリカの産業保護政策に対する糾弾に使うことができる。
①アメリカ農業への輸出補助金違反(WTO定義の市場をゆがめる補助金)
②米郵政公社の独占は市場をゆがめていると批判
③鉱工業への一連の保護政策への差し止め請求
④SDI条項を理由とした第三の保険への参入自由化(これは日本の話)

SDI条項が日本にとって脅威ならば、日本も逆手にとってアメリカを訴えればよい。むしろTPPをチャンスとしてとらえる見方も必要ではないか?

(43)