2011年10月24日月曜日

TPP交渉に参加せよ

 世間ではTPPについて侃侃諤諤の議論が展開されている。TPP参加の是非ではなく交渉参加の是非の段階でこの揉め様である。個人的な意見としては交渉の結果をみて改めて参加の是非を判断すればよいと思うのだが。したがって私は現段階では推進派でも反対派でもない。交渉の結果を見極めたいから立場を決めるつもりである。ただ反対派の論理には飛躍が散見されるとも感じている。

 例えば反対派は、TPPが導入されると食品の安全基準が外国のものに統一され、その結果日本の基準では安全とはいえない食品が食卓に並ぶことになるという。消費者が強制的に外国産の食品を買わされるというならばこの論は正しいだろう。しかし安全な食品が欲しいという消費者は安全な国産のものを買えばよいのである。価格は外国産に比べて割高になるだろうが、安心のためならばさほど高くはない。

 これは反対派が主張する農業衰退論にもつながる。確かに日本の農業が外国との価格競争に勝つことは困難だ。しかし食品というものは工業製品と違って口に入れるものである。安ければいいという話ではない。安いが危険な食べ物と多少高いが安心な食べ物、賢明な消費者はどちらを選ぶだろうか。日本の消費者はただ安いものに群がる愚者ではない。TPP反対派や国内農業保護論者は日本の消費者をバカにしているのではなかろうか。話を元に戻すと、国内農業が生き残る鍵はここにある。すなわち安全性、高品質を売りにするべきなのである。実際のところ、日本の高品質な農産物は海外では大変な人気である。TPP参加で日本の農業は壊滅という悲観論だけではなく、これを機に日本の農産物を海外に積極的に売り出そうという気概も必要である。

 更に話を進めると、現状のままではTPPに参加するしないに関わらず国内農業の衰退は免れない。零細農家中心の体制を脱却し、大規模農家の育成、法人の参加促進、農協改革などを進めなければそれこそ日本の農業は壊滅するだろう。しかしそうした改革は遅々として進まない。最早農家への個別所得補償で解決できる次元ではないのである。反対派はこうした問題に対してどのような認識を持っているのだろうか。

 またTPP参加後、外国から単純労働者や弁護士・医者などの専門技術者が大量に国内に流入するという話もあるが、これは飛躍が過ぎるだろう。なぜならばこの主張は言語の壁を無視ないし過小評価しているからである。日本語もろくにできない労働者を企業は雇うだろうか。弁護士や医者についても、日本人でも理解しづらい法律や医療の専門用語を考えればなおのことである。日本人の顧客が積極的に外国人弁護士や医師を利用するメリットもみつからない。

 全体的にTPP反対派の論理は、日本の消費者・顧客の観点が欠落している、あるいは彼らの見識を不当に低く見積もっていると感じざるを得ない。国民皆保険制度崩壊などもいささか誇張が過ぎるのではなかろうか。ただし、だからといって反対派の主張はとるに足らないと言っている訳ではない。

 反対派の言うようにデフレの問題は無視できない。外国から安い製品が輸入されるということはそれだけデフレに拍車がかかることになる。だたでさえ日本は長期的デフレに悩まされているのに、更にそれが悪化するというのは深刻な問題だろう。したがってTPPに参加する場合にはデフレの解決が不可避といえる。

 輸出依存度の低い日本がTPPに参加するメリットはあまりないという主張も概ね妥当といえる。ただし、敢えて言うならば、TPPに参加しなければ日本の輸出量・貿易黒字は減少することになる(少なくとも増えることはない)が。

また、輸出を伸ばしたいならTPPよりも円高対策という主張もその通りだ。現状のような異常な円高(ドル安というべきか)が続けばTPPの旨みも減少してしまう。

 いずれにせよ推進派・反対派双方が歩み寄って議論することが不可欠である。その際にはメリット・デメリットを互いに認め合うことが肝心だ。TPPはこの国のありかたを大きく左右する重大な問題だ。決して「平成の開国」などという安易なきれいごとで済ませる問題ではない。

 そして何よりも、交渉してみなければどうなるかわからないのである。初めからアメリカに要求を呑まされると言っている人々は日本という国家を無能力国家とでも言いたいのであろうか。確かに民主党政権では心許ない気持ちも理解できる。しかし交渉もしていないのに、あたかも日本社会が奈落の底に突き落とされるかのようにデメリットばかりを強調し不安を煽るのはいただけない。交渉の結果、どうやら不安が現実のものとなりそうだというのであれば反対してもらって結構だ。しかし現状でとやかく喚きたてるのはお門違いである。

(坂木)